あとで後悔しない「いい家」の建て方 BESTHOUSE

第一章 どうすれば安くていい家を建てることが出来るのか


 独立以降は、リフォームを中心に手掛けていました。そしてそのリフォームの内容も、次第に大掛かりなものになり、家全体の改装工事を多く手掛けるようになりました。

 大掛かりなリフォームは、基礎や地盤を調査することからスタートします。例えば古いコンクリートの基礎に細いドリルを入れると、白い噴煙が舞い上がります。それは、コンクリートが乾燥してパサパサな状態を意味します。コンクリートの強度が弱いだけでなく、中に鉄筋が入っていなかったり、ひびが入っていることも多々あります。

 もちろんこういった基礎は補強工事を施さなければなりません。基礎の補強を行うと新築以上の金額になってしまう場合があります。受注金額がトータルで2000万円を超える案件も扱うようになりました。

 そうなってくると、私の中に、果たしてこのままリフォームをお勧めしてよいのだろうかという疑問が芽生えてきました。基礎補強の必要性と合わせて、地盤の悪い地域は地盤補強の必要性があるからです。特に私の会社は地盤の悪い地域で、老朽化した建物も数多く建っていたのでより強く思いました。

 2000万円というのは、言うまでもなく相当な大金です。今の新築は、耐震補強をしたリフォームと比較しても、圧倒的に強度があります。お客様の立場で考えたら安全を最優先するべきです。

 同じ金額で、地震に強い安全な家が建てられないだろうか。新築とリフォームが同じ金額だったら、新築の方をお勧めするべきなのでは?なぜなら、この小さい島国に世界中の地震の10%前後が発生しているからです。その既存の建物に深い思い入れがなければ、私がもし2000万円をかけるとしたら、新築の提案をしてほしいと思うはずだ・・・・。

思い切ったコストダウンを実現

とはいえ、既存建物の解体や引っ越しや仮住まい、地盤補強をしながら、都内で3階建ての高品質な家を、リフォームと同等もしくは、わずかにそれを超える程度の金額で建てるのは簡単なことではありません。

 そこで私は木造住宅を専門として思い切ったコストダウンに挑戦することにしました。

 自分が職人をしていたので、品質を下げてコストをカットするという考えは、全くありませんでした。品質は絶対に落とさずに、コストを下げる。そのためには、協力してくれている業者さんの理解を得なければなりません。

 ここでお付き合いのある職人さんに対して『明日からコストをカットします』と伝えたら、決して上手くはいかなかったでしょう。職人さんのモチベーションが下がって、結果的に品質の悪化を招く恐れがあるからです。

 しかし、私には力強い味方がいました。真っ先に協力してくれたのは、私が職人時代、駆け出しの時から可愛がってくれていた兄貴分や親方の職人さんです。

 その職人さんに自分の考えを切々と訴え、こうお話ししました。

 『細かな納まりの統一化を図り、作業効率を上げる設計をします。ですので、建てれば建てるほど作業効率が上がり、精度も上がるようになります』『ここは私を信用してください。これから受注をどんどん増やします。コストは下がっても、継続して仕事を出すようにするから安心してください』と。

 その時『お前がやるなら協力してやるよ』と言ってくれた職人さんの協力、そして、多くのメーカーの方の協力があったからこそ、コストダウンが実現したわけです。

 そこから本格的に新築を手掛けるようになり、現在では職人さんに約束した通り、受注件数は増え続けています。最初こそ、収益そ度外視したために苦労もしましたが、今では自分の考えが間違いではなかったと実感しています。その思いを実現させたのは、お客様にとって必要であろう安全性を追求した結果でした。